５．狂喜乱舞
実はそれからのことはよく覚えていない。
ただただ、「嬉しい」という意識で頭が一杯だった。
というか、それ以外に表現する言葉が見つからない。
その時は、福田のＶゴールがあの９９年１１月２７日以来であることも、
負傷したはずのエメが全速力で福田に駆け寄ったことも、全く気がつかなかった。
その時はただひたすら、完全に裏返った声でＧｅｔＧｏａｌ福田を繰り返していた。
そして挨拶にきた選手たちに向かって叫んだ。
「サイコーだよ！おまえら！」
本当はスタジアムで暫く余韻に浸りたかったが今日中に埼玉へ帰らねばならない。
帰りのバスの混雑はあちこちで経験し身にしみているため、我々は４キロ（ナビソフト調べ）
の道を歩いて利府駅まで戻ることにした。
途中ＲＯＭさんから電話を頂いたので、丁重にお礼を言い、埼スタで再会することを約束した。
ただ、非常に浮かれていたため、もしかしたら失礼をしたかもしれない。
その後も、埼玉にいるサポ仲間の方々にたて続けに勝利報告の電話をしながら歩いていると、
あっという間に利府駅に着いてしまった。
足取りが異様に軽く感じられた。
やはり、サポにはどんな栄養剤よりも１つの勝利が効果的なようである。
利府からの電車にも座れ、スムーズに仙台駅に到着。
新幹線の時間まで少し余裕があったため、お土産に「萩の月」を買い、構内の店に入って
「牛タン御膳」を注文した。帰り際にやっと少し仙台らしくなってきた。
仙台といえば、我々の世代には「青葉城恋歌」が馴染み深い。
あの唄の歌詞は、確か市民から一般公募したんじゃなかったっけ？
市民が起源となって、いまや仙台の唄の定番となっている。
その点ではベガルタ人気とよく似ている。
今日見た限り、完全にベガルタは仙台市民のチームに定着したように思う。
ヤスもそんなチームの一員として認められたようで嬉しい。
ああそれなのに・・・、怪我は大丈夫だろうか？
いろいろな思いを胸に、我々は帰りの新幹線に乗り込んだのである。
と、普通であれば、このアウェイツアー記は、ここで終わりということになるのだが、このあと
本日２度目のハイライトとなる出来事に遭遇したため、以下に蛇足が付く・・・。
６．接近遭遇
勝利が何よりの栄養剤だとはいえ、さすがに疲れた。
新幹線の席に着くと一気に眠気が襲ってきた。
我々の席は１番のＡＢ、大宮寄りの端っこ（それも３列側）であった。
目の前が壁という、たぶん最悪の席である。
しかも通路の自動ドアが、何度もバタンバタンと開閉するため
大変鬱陶しい。それでも人が通るときは仕方ないと思うが、
さっきから携帯を使っているアンちゃんがデッキをうろうろしながら
話をしており、ドアのセンサーに感知されるせいか、その都度誰も通らないのに
ドアが開き、鬱陶しいことこのうえない。
にゃんたは目をつぶって眠りの体制に入ろうとしていたが、私はドアの
バタンバタンが気になってなかなか眠れそうにもなかった。
私はこのアンちゃんに少しむかついて、ドアが開閉するたびに、
そちらを睨みつけていた。何度目かのドアが開いたとき、私の予想に反して
スーツを着てネクタイを着用した若い男がふたり入ってきた。
あれ、どこかで見た顔だなと０．３秒ほど考え、ある結論に達した。
俊也と達也だっ！
私はまさに眠りに落ちようとしているにゃんたを叩き起こした。
彼女は一瞬不機嫌そうにこちらを睨んだが、去っていく二人の後姿を指差し
「おい、俊也と達也だよ！」と告げると、「えっうそうそ〜！？」
あっという間に飛び起きて見逃したことを悔しそうにしているのであった。
もしかしたらこの列車に選手が乗っているのかな？
すっかり目が覚めてしまった我々が興奮して話していると、今度はこの車両から
通路を出て行く人がいた。何気なくそちらに視線を移してみると、どうやら
スーツ姿の外国人らしい。日曜日のこんな時間に外国人ビジネスマンが乗っている
とは珍しいな。それにしても自動ドアだというのに取っ手に手をかけて開けるとは
随分せっかちな人だ。そう思って横顔をよく見たら
トゥットだった！
またにゃんたは気がつかなかった。
調べてみると、この車両の２両後ろがグリーン車である。選手たちがそこに
乗っているのは間違いなさそうだ。ということは、出て行ったトゥットは必ず
戻ってくる、そう確信した。
でも公共の場で選手を呼び止めサインをねだるなんてことはさすがにはばかられる。
不快な思いをさせずに、トゥットに今の爽快な気分を伝える方法はないものか、
私は考えた。そうだ、トゥットはよく親指を突き出すＯＫサインをしている。
あれにしよう。私は頭の中でＯＫサインのイメージトレーニングを繰り返した。
我々はドアが開くたびにそちらを注目した。そして何度目かの空振りののち、
ついにドアからトゥットが顔を出した。
よしっ、今だっ！
私は思いっきり親指を突き出した。我々がレプリカを着たままであったためか
すぐトゥットはこちらに気づいてくれた。そして嬉しいことに、にっこり笑って
親指を突き出し返してくれたのである。
我々がますますトゥットのファンになってしまったことは言うまでもない。
その後も、喜熨斗コーチと啓太が通路を通った。
我々はそのたび大騒ぎして、一般の乗客の皆さんに迷惑をかけたのであった。
結局帰りの新幹線でも眠れなかった我々が帰宅したのは午後１０時。
翌日は眠い目をこすりながら仕事に出かけねばならなかったのである。
（完）
宮城スタジアムとベガルタサポの皆さん