１．いらいら
長野道姨捨の坂を登りきったあたりで、クルマはぴたりと停まってしまった。
朝早くからこんな所で自然渋滞があるわけがない。
それに自然渋滞なら少しづつでも前に進むはずである。
クルマの列はさっきから全く動くそぶりさえ見せない。
これは事故かもしれない。
前夜午前様の帰宅のためずっと助手席で寝ていたにゃんたも起きていぶかしげに
クルマの列を眺めている。
せっかく朝の４時に出てきたのに何と言うことだ。
私は焦ってしまった。
今回、フォレを駆っての神戸行はいわば賭けだった。
こいつでアウェイに行く度勝ちに見離され、あげくの果てに御祓いに行く途中で
電柱にぶつける始末。雑誌への掲載には何とか修理が間に合い、全国に恥を晒す
ことだけは免れたが、なんだかんだで結局御祓いを受けることはかなわなかった。
（ここらへんの経緯は「御祓いツアーに出かけましたよ」を見てください）
それでも「今度こそ」の思いを胸に出発したのである。
マヌケ面を全国誌にさらすにゃんた夫婦 コメントも大笑い
画像提供 ＪＯＥさん
それなのにいきなりのストップ、実に縁起が悪い。
クルマから降りている人がいる。斜め前に停まっているドライバーはおにぎりを
ほおばっている。私は長期戦を覚悟した。
覚悟はしたが、やってくるものはやってくる。
出発したときに飲んだコーヒーが今になって下へ下りてきた。
あいにくパーキングエリアは通り過ぎたばかり。歩いて戻れない距離では
なかったが、いつ動き出すかわからない状況ではさすがにはばかられる。
幸い峠を登りきったところなので周りに人家はない。
本当にせっぱつまったときにはあのガードレールを越えて外に出れるかな。
そんなことを考え始めたとき、今までずっとクルマが通っていなかった反対車線を、
まるで堰を切ったようにクルマが通過し始めた。
かすかな望みを抱いていると、前のほうで外にいた人たちが慌てて自分のクルマに
戻っていくのが見えた。
ほどなくクルマは動き出した。約２０分のロス。
でもまだ
サッカーの神様は我々を見捨てていなかった！
そしてトイレの神様も・・・。
次のサービスエリアに入ってトイレに駆け込んだのは言うまでもない。
で、その渋滞の原因であるが、結局わからずじまい。
本当に日本の道路は謎が多い。
２．おじゃまします
その後は、一宮ＩＣあたりで若干渋滞したくらいで（もちろんこの時は前もって
パーキングに寄っておいた）順調に進み、お昼前には阪神高速神戸線のうえを
走っていた。ここで神戸在住のレッズサポ、Ｆさんに電話する。
Ｆさんと初めてお会いしたのは半年前、某有名サイト（ったって想像はつくと思うが）
のオフ会のときである。うちと同じくご夫婦ともどものサポで、一度万博でご一緒
させて頂いた。
そんなＦさんとお昼御飯くらいご一緒できるといいな程度に考えていたのだが、
Ｆさんは我々のホテルまでクルマで迎えに来てくれたうえに、ポートアイランドにある
「ちょっと高級そうだけどリーズナブルなお店」に連れて行ってくださった。
パスタを食べながらしばし談笑する。
実はＦさんの奥さんは妊婦さんである。
それも予定日が今月というからいわゆる臨月なのである。
なのに今日の夜はＳｍａｐのコンサートに行くらしい。
なんと３時間もの長丁場なのだそうだ。
いつも一緒に行っているお友達が今回に限ってダンナであるＦさんを誘ったそうである。
そのことを指して
「コンサートの最中に具合が悪くなったら責任持てないって思ったんじゃないかしら」
なんて笑っている。すごいぞＦさんの奥さん！
母子ともに健康が保証されているようなもんである。
なお、ここまで読んで「心身ともダイナミックな関西オババ」を思い浮かべたかたが
いるかもしれないので念のため書いておくが、実際のＦさんの奥さんは心身ともスマートな
「関西オババ」とは対極の素敵な奥さんである。浦和の出身だし。
でもそんな訳で、今晩はＦさんがおヒマなのだそうである。
なんかお世話になってばかりで恐縮至極ではあったが、
Ｆさんに連れて行ってもらった飲み屋でうまいメシを食べることができたのであった。
（↑下戸夫婦のため）
３．しんみり
翌日８月４日（日）はいよいよ試合の日。
ホームならば、遅くとも開場の１〜２時間前には並んでいるところだが、
Ｆさんによると神戸の試合で満員になることはまずないため試合開始の１時間も前に行けば
余裕だろうとのこと。
今日は、やはりレッズ仲間のＴさんが新幹線で、Ａさんが飛行機で神戸へ来ることに
なっている。そこで、Ｆさんと私が新神戸駅へＴさんを、 Ｆさんの奥さんとにゃんたが
三ノ宮のバスターミナルへＡさんを迎えに行き、別行動のうえ試合開始までに現地集合と
いうことにした。なお、ＴさんともＦさんと同じオフ会でお会いし、今回お会いするのが
３回目だ。Ａさんは今回が２回目、それも前回は試合ではなくファミレスでお会いした。
新神戸駅ではＴさんとすぐ会うことができた。
そしてもう一人、Ｔさんと旧知の間柄である神戸サポのＳさんという方がいらっしゃった。
Ｓさんはヴィッセルのボランティアスタッフをしながらサポートしている。
ボランティアといいながらも、なにしろ人数が少ないので出番が多くなってしまい
苦労も相当多いとのことである。
食事をしたあとＦさんのクルマで改修中の神戸ウイングスタジアムへ行く。
Ｗ杯では仮設だったサイドスタンドが取り払われ、まさに改修工事の真っ最中といったところである。
来年の完成後にはヴィッセル神戸のホームスタジアムになるそうだ。
これでまた来年神戸に来る理由ができた。
ウイングスタジアムから元町の大丸へ。
ここにかの三浦カズ行きつけの喫茶店があることはＦさんから聞いていた。
その店の前の道にナンバー「１１」のポルシェを停まっているとカズがいる目印なんだそうだ。
Ｆさんからそんな説明を聞きながら大丸には入らずに前の道を通りすぎたのであった。
因みにちょうど同じ頃、女３人で「神戸甘味食べ歩き」をしていたにゃんたたち一行もやはり
Ｆさんの奥さんから同じ場所に案内されていたらしい。
いったんクルマを自宅に置きに行くＦさんを別れ、３人で三ノ宮付近を散策する。
そういえば呑気な私はすっかり忘れていたが、このあたりは震災のときにかなり酷い被害を
受けたのではなかったのかな。Ｓさんに聞くと、周辺に聳え立っているビルを指差し、
あれも、これも全部つぶれた、あそこの古いビルは潰れはしなかったが壁面にひびが
残っている等々いろいろ教えてくれた。
そして神戸市役所のそばにある慰霊と復興のモニュメントへ。
そこには震災で被害に遭われた方のお名前が全員プレートにはめ込まれている。
こんなにたくさんの方が亡くなったのかと驚いていると、Ｓさんが立ち止まり、
あるプレートを指差して言った。
「これ、僕の父です。」
Ｔさんは黙って手を合わせている。私はといえば言葉を失うばかりだ。
建物は再び建った。でも人の命は戻りはしない。
不幸に遭った人に対して慰めの言葉を発するのはたやすい。
でも所詮第三者は第三者、当事者の気持ちには絶対になれない。
どんな言葉を発したところで白々しく響く。
唯一出来ることは、二度とこのような不幸な出来事が起きないように祈るばかりである。
でもＳさんはさっきからひたすら明るい。
悲劇のヒーローにされることはたぶん本人も決して本意ではないと思うので、
気持ちを切り替えて試合に臨むことにした。
４．ばんざい
再びＦさんと合流し地下鉄に乗って神戸ユニバへと向かう。
ＳさんとＴさんはバックスタンドで一緒に観戦するとのことで別れ、
私はＦさんと一緒に当然のごとくアウェイ側サイドスタンドに向かった。
朝からずっと晴れていたのだが、ここに来て空には入道雲が広がってきている。
Ｆさんが言うには、ユニバ周辺は、どんなに神戸市内が晴れていても必ずといっていいほど
雨が降るとのこと。やばい、ポンチョは宿に置いてきてしまった。
で、あとここでＪさんと合流する。
月曜日に大阪出張が入ったので前泊して神戸へ来たというパワフルなレッズサポである。
ひょんなことから一緒に観戦することになり、互いに初対面のためうまく会えるか少々心配
だったが、無事お会いすることができた。
キックオフ３０分前には女性陣も合流した。
Ｆさんの奥さんは特に疲れたふうもなく当然のような顔をして座っている。
むしろにゃんたの方が疲れた様子であるが、これは女性陣では最年長という年齢的なものが
関係しているのかもしれない。
試合は押され気味で始まった。
支配率は圧倒的に神戸。こぼれ球は拾えないわ、パスカットはされるわ、決定的な場面は
作られるわで全然いいところがない。神戸の決定力不足に助けられている感じである。
しかしそんな中、喜びは突然やってきた。
神戸のゴール前正面から福田が放ったミドルシュートがクロスバーへ。
敵陣が反対側だったのでよく見えず、ありゃ福ちゃんまた当てちゃったかと思ったら、
ボールはゴールネットを揺らしていた。
一瞬遅れて跳び上がる。まるで仙台のＶゴールのときみたいだ。
前半はその後一進一退。まあ悪くはない。
しかし今度は空の雲行きの方が悪くなってきた。
そして前半４０分、いきなり大粒の雨が落ちてきてまもなく土砂降りになった。
Ｆさんの言う通りになってしまったのである。
前回Ｆさんご夫妻と観戦したＧ大阪戦（於万博）でも試合途中に大雨が降ってきた。
どうも新たなジンクスが生まれそうではある。でもあのときも負けなかったもんね。
雨はハーフタイムまで降り続いたが後半が始まるころには止んでしまった。
これも万博と同じ・・・。
後半に入り神戸の足が止まりだしてからは一方的なレッズのペースであった。
特に出場停止のエメ、暢久に代わって出場した達也と平川が素晴らしかった。
ゴールとなったのは達也のヘッドの１点だけだが、それ以外にも決定的なチャンスは
２〜３度あった。まあそれを決めきれないところがレッズのレッズたるところかもしれないが。
逆に、後半の終了間際、三浦カズと城に危うく決められそうなシーンが立て続けにあった。
過去の人に決められる、これもレッズのレッズたるところであるが、カズはともかく
城だけは笑って済まされないのでホッとした。
内容的にはいろいろあるものの、ともかく当面の眼下の敵、神戸から勝ち点３を
もぎ取ることが出来たのであった。
そしてついに、フォレでの連続不勝記録がストップした！
画像提供 Ｊさん
三ノ宮に戻り、皆で祝杯を上げる。
Ｓさんは落胆のあまり帰ってしまったとのことだったが、きっとめったに勝てない
チームのサポに気を遣ってくれたのに違いない。
Ｊさんとも競技場で別れた。別れ際に彼女がこう言った。
「レッズサポの方はみんないい人ばかりで、今日は本当に来て良かった。」
そういえば、今ここで旧知の如く杯を酌み交わして（しつこいようだが私は下戸、比喩ですからね）
いる皆さんとも、知り合ってからまだ１年経っていない。
好きなレッズをネタにおっかなびっくり始めた我々のホームページであるが、
今は本当に始めて良かったと感じている。
こんなにたくさんの素晴らしい仲間とお会いすることができたのだから・・・。
最後になりましたが、いろいろお手間を取らせてしまったＦさんご夫妻を始め、
Ｔさん、Ａさん、Ｊさん、 そして神戸サポのＳさん、本当にお世話になりました。
心からお礼申し上げます。Ｓさん、今度は駒場でお待ち申し上げております。
で、最後にもう一言。
この日の出来事はたぶん来年早々に、もっと名文で読むことができるであろう（謎）。
（完、 １週間後の名古屋アウェイツアーに続く．．．かな？）