おかだま　　さよし
私の名前は岡玉　裟義。

サッカーの審判員である。


といってもそんじょそこらの草サッカーの審判員と一緒にしてもらっては困る。
私の場合、普通の審判員とは訳が違う。


私はプロフェッショナルなのだ。

審判でメシを食っているのだ。



メシで思い出したが、そういえば今日はまだメシを食っていないことを思い出した。
メシはまだだろうか？





そんなことはどうでもいいのだが、とにかく私は最もランクの高い審判なのである。
何故なら、世界最高峰のサッカーが繰り広げられるワールドカップ。
私はそのピッチに立ち審判を勤めたこともある。それくらい優秀な審判だと認められているのである。


だから私が判断することはすべて正しい。




なのに、私の判断に異を唱える者がいる。


それでも副審の諸君は、私の判断が常に正しいことをよく理解しているから、
すぐに自分の判断が間違っていることをわかってくれる。



始末が悪いのは選手や監督である。


彼らはこの私が何故そこにいるのかまったく理解していないのだ。
彼らは私の判断に従順に従っていればよいのだ。そうすればすべてはうまくいくのだ。






若いころから目にも足にも自信があった。


審判にはゲームの流れに置いていかれないための目と足が必要である。
もちろん私は常にそれらが衰えないように鍛えているから大丈夫である。絶対に衰えるはずなどない。


この間みたいに、後ろにいる選手が蹴ったボールに当たってしまったときとか、
ファールの場所が遠すぎたり角度が悪くて見えなかったときとかのしょうがない時を除けば、
私が問題なくゲームの流れに乗って正しいジャッジを行っていることは言うまでもないだろう。



だって私は審判でメシを食っているのだからそんなことは当然なのである。



・・・メシ。・・・そういえばメシはまだかな？








なのにそんな完璧な私に従わない選手がいる。


中でも、今までで一番私に逆らう選手が多かったチームは鹿島であった。
絶対に正しい私に逆らうことは間違いなのだから、ある程度の報いを受けることはしょうがない。
不利な判定をされてもそれは仕方がないと言うものだ。
それが原因でゲームに負けても自業自得だと言うものだ。



しかし、最近では多少状況が変わってきた。


鹿島の勢力が衰え、横浜や浦和といったあたりが勢いを伸ばしてきた。
勢いが強くなると、どうしても逆らう選手が多くなってくる。


だから最近はこの２チームのことを注意して見ている。





もっとも、浦和についてはもともと気に入らないことが多かった。




まずエメルソン。

この選手はいつもわざと転んでファールを貰おうとする。それも常習犯である。
審判を欺く行為は、最も報いを受けて然るべき行為である。

そして一度身に着けた悪癖は二度と治ることはないのだ。




次に鈴木啓太。

この選手はまだ若い。なのにそのことを自覚していない。
若いということは未熟であるということと同じ意味なのに、そのことを全然理解していない。
それなのに、平気でこの私の判断に異議を唱えた。

こういう若造は一度ガツンと痛い目に会わせなければいけない。
何が正しいのかということを判らせなければいけない。

というかこいつは生意気だぞ。キャプテン面しやがって。
私に逆らう奴がどうなるかを２度も判らせてやった。はは、いいキミだ。




だいたい私は浦和のサポーターが大嫌いだ。


いつもうるせーんだよ。


ちょっと自分たちに不利なジャッジがあるといつもいつもギャーギャー騒ぎやがって。

お前らがうるせーから、
私が目立たないじゃないか！


私は目立ちたいんだよ。

ワールドカップ審判まで勤めた私が目立たないゲームなんか許せない。


お前らがいくら邪魔をしても、私は自分の力で絶対に目立ってやる。







興奮して大きな声を出したら腹が減ってしまった。

そういえば、メシだ。いったいいつまで待たせる気なんだ。


お〜い。メシはまだか〜！









あらあら、岡玉のおじいちゃん、大きな声を出すと周りに迷惑だから静かにしましょうね。

それにご飯ならさっきお昼食べたでしょ？


あ、私ですか？
老人介護施設「楢山節考」の職員です。


岡玉のおじいちゃん、最近ボケが酷くなってるんです。
言うこともすることもどんどん訳がわかんなくなってるし、もう正当な判断なんて出来なくなってますから、
できればそっとしておいてあげてくださいね。







追記−岡玉じいさんへ贈る言葉


五十知命【ごじゅうちめい】

論語より、５０歳で天命を知ること。『四十不惑』に対応する言葉。
もう５０近いんだからいい加減やめれという意もある（かどうかは知らない）。







（完）
　　








てなわけで、『なんとかしろ椅子男キャンペーン』の新ネタです。
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